ナラティヴ・エクスポージャー・セラピー(NET)とは

ナラティヴ・エクスポージャー・セラピー(Narrative Exposure Therapy: NET)は、トラウマ体験を持つ人々、特に複数のトラウマを経験した人に対して効果的な心理療法の一つです。
この療法は、主に以下の点に焦点を当てています。

1. セラピーの目的
NETの主な目標は、トラウマに対する感情的な苦痛を軽減し、その経験を個人の人生の中で意味づけられた物語として統合することです。トラウマに対する回避的な反応を減らし、記憶を整理して患者さんが自分の過去をよりよく理解できるようにサポートします。
2. 手法
このセラピーでは、患者さんが自身の人生の物語を時系列に沿って語ることを通じて、過去のトラウマや困難な出来事に直面します。具体的には、次のようなステップで進められます:
  • 人生ラインの作成:まず、セラピストとともにクライアントが自分の人生の重要な出来事を時系列で整理し、視覚的な人生ラインを作ります。
  • トラウマのエクスポージャー:特に苦痛を伴うトラウマ体験に対して詳細に語り、エクスポージャーを行うことで、体験を整理します。クライアントは、過去の出来事を振り返りながら、それに伴う感情や身体的反応を経験します。
  • 物語の構築:トラウマの詳細な記述が終了した後、セラピストとともに人生全体の文脈においてトラウマを再定義し、クライアントの人生の中での意味を探ります。
3. 対象者
NETは、主に以下のような人々に適しています:
  • 複数のトラウマを持つ人々(例えば、難民、戦争被害者、虐待を受けた人々)
  • PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を抱えている人
  • トラウマに関連したフラッシュバックや悪夢、感情の麻痺、回避行動に苦しむ人々
4. 有効性
NETは、複数の研究によってその効果が確認されています。特にPTSDの症状の改善や、トラウマ体験の記憶に対する新しい認識を形成するのに役立つことが示されています。また、NETは比較的短期間で実施可能であり、リソースの限られた状況下でも使用しやすい点が特徴です。
5. エビデンスベースのアプローチ
この療法はエビデンスベースであり、戦争地域や難民キャンプなど、過酷な環境で実施されることも多いです。NETのエビデンスに基づいたアプローチは、過去のトラウマを整理し、現在の感情的な苦痛を軽減することに焦点を当てているため、非常に実践的です。
まとめ
ナラティヴ・エクスポージャー・セラピーは、トラウマ体験を人生の一部として整理し、新しい意味づけを与えることを目指した心理療法です。短期間で効果を発揮するため、PTSDや複数のトラウマを持つ人々に有効なアプローチとして知られています。

お知らせ

2024年12月6日
Narrative Exposure Therapy for PTSD - 集中2日間コース』を 2025年2月1日(土)・2日(日) KOBE Co CREATION CENTER 「ROOMA」にて開催します。
詳しくは以下のパンフレット(PDF)をご覧ください。
https://narrative-exposure-therapy.jp/images/20250201.pdf
2024年12月6日
第3回ナラティヴ・エクスポージャー・セラピー(NET)を知る ― 複雑なPTSDに有効な、人生史を語る心理療法のご紹介 ―』を 2025年1月11日(土) 関西国際大学 尼崎キャンパスにて開催します。
詳しくは以下のパンフレット(PDF)をご覧ください。
https://narrative-exposure-therapy.jp/images/20250111.pdf
2024年12月5日
精神神経学雑誌126巻第11号にNETに関する道免逸子先生の論文が掲載されました。
症例報告
ナラティヴ・エクスポージャー・セラピー(NET)による虐待サバイバーのPTSD治療報告―複雑性PTSDとの対比からの考察―
道免 逸子1), 出口 靖之2)
1)関西国際大学心理学部
2)財団法人長岡記念財団長岡ヘルスケアセンター(長岡病院)精神科
精神神経学雑誌 126: 715-723, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-116
受理日:2024年7月1日
子ども虐待,性被害,ドメスティック・バイオレンス(DV)のサバイバーで,情緒不安定性パーソナリティ障害と診断された30歳代女性に実施したナラティヴ・エクスポージャー・セラピー(NET)の1症例を報告する.PTSD臨床診断面接尺度(CAPS)の結果から症例にはPTSDの併存が認められ,加えて感情調整の困難,一貫してネガティブな自己像,対人関係の困難があり,家事,育児など日常生活への支障をきたし,社会的ひきこもりがみられた.症例に対し,精神科病院外来にて3ヵ月間,週1~2回,計21回のNETを実施した.使用尺度はCAPS-IV,出来事インパクト尺度,自己評価式抑うつ性尺度,解離体験尺度である.NET終了後12ヵ月で,PTSD症状は顕著に軽減し,社会適応と対人能力の向上がみられ,就労し,カウンセリング,外来診療ともに終了した.NETは曝露―馴化と自伝的記憶整理を機序とするトラウマ焦点化認知行動療法である.難民を対象に開発され,特に複雑なトラウマ体験によるPTSDに有効とされる.拷問などの組織的暴力のみならず,子ども虐待やDVなど長期的反復的なトラウマ体験によるPTSDへのエビデンスが蓄積されてきた.本症例では,NETのもつ曝露―馴化と自伝的記憶整理の効果がPTSD症状と解離症状を軽減し,NET作業がもたらす言語化能力・感情調整能力の向上により,原病である情緒不安定性パーソナリティ障害の症状が軽減されたと考えられる.本症例の感情調整の困難,一貫してネガティブな自己像,対人関係の困難には,複雑性PTSD(CPTSD)の自己組織化の障害(DSO)の症状との類似性がみられる.CPTSD診断基準公表以前の症例であり,DSO症状の可能性が示唆されるにすぎないが,今後適切な診断尺度を用いたNETのCPTSDへの効果検証が期待される.
<索引用語:ナラティヴ・エクスポージャー・セラピー(NET), 情緒不安定性パーソナリティ障害, 複雑性PTSD(CPTSD)>
2024年11月13日
『ナラティヴ・エクスポージャー・セラピーの医療における実践』のyoutube動画を公開いたしました。
当院におけるナラティヴ・エクスポージャー・セラピーの実践を患者様の協力を得て紹介いたします。
詳細は当院院長が企画・編集した『ナラティブ・エクスポージャー・セラピーの理論と実践』(星和書店)をご覧ください。
2024年10月17日
『ナラティブ・エクスポージャー・セラピーの理論と実践』(星和書店)
森 茂起〈監修〉、 野呂 浩史〈企画・編集〉
☆彡“ナラティブ・エクスポージャー・セラピー”に関する日本における日本人の経験に基づいたはじめての成書刊行!
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn1092.html
2024年10月1日
ホームページを公開しました。